この知識はこんな方におすすめ
- 料理酒が料理にもたらす効果
- 料理酒の多用の使い方
- 時代によってどのように酒は変化してきたか
目次
日本人にとっての「料理と酒」
料理に酒を用いるのは、食材の香りを引き立たせ、味を整えることが目的とされています。また日本料理に酒が多用されている理由を一つに、日本人の甘味に対する特別な感覚のなせる技があげられています。
もともと飲むために作られた酒や本みりんが、調理にさかんに使われてきたのには酒や本みりんにしかできない何か大きな効力が見られたのか、あるいは過去の技術の単なる踏襲の意味なのかなど、今後の食生活営んでいく上で大いに参考になる事ではないでしょうか。
調理の技術なり、新たな料理法の開発は常に過去の技術の集積の上に成立するものであり、食べ物をつねに「うまくする、うまいもの」とした方向で進展してきたものです。
だからと言って、現在の料理や調味の仕方を単に見るだけでは、十分ではないと考えます。つまり、先人の数々の工夫の根元を見ることが、今後の食生活を「うまくする」いろいろな試みを積極的に生み出してくるのです。
時代とともに変化する酒
かつて奈良時代にはあえ酒と呼ばれる飲む酒ではなく、調理に使う酒が現れています。あえ酒は食品に染み込ませるものではなく、食品の上にかけたり、漬けたりして使うものであったとされています。
そして平安時代に入ると一層進んだ形になり、酒の用途は海菜料、漬物料、など6つに分類されるほど広がり、酒は「ふりかける」・「洗う」・「浸す」というふうに用いられたのでした。これは、現在では下調理として行われている方法ですが、当時は本調理として行われていたのでした。
室町時代には酒塩が生まれました。これは酒を調味の時に塩のように入れるものであり、主に煮物料理などに利用していました。また蒲鉾はこの時代に出現しています。そして公家に向けた四条流、武士家に向けた大草流には野鳥や獣肉の調理が多く出てきてきます。
この中に必ず酒浸しをするものと、しないものがあり、この区分けは臭いもの強いものと、強くないものとみなすことができ、酒の果たす役割が「臭い抜き」であったことが理解できます。四条流によれば、酒の使い方は煎って酒塩を加える潮煮、水と酒でにて酢をさす酢煎、塩と酒塩をそえる包焼などがあり、使用に基本は「洗う」・「浸す」・「かける」・「和える」・「煮る」でした。さらに酒に鰹を和え、煮つめて、、つけ醤油のように刺身につけて食べる他、「だし」として使う煎酒もありました。
そして、日本料理の完成期とも言われる江戸時代に入りますと、酒や鰹節が盛んに使われるようになり、本みりんが登場してきます。料理もいろいろなぬたあえ・魚あえ・鰌汁・水和え・刺身・あつ物など、その種類は飛躍的に増えたのでした。本みりんは、それまでたまりに酒や砂糖を混ぜていた調味料に変わって、醤油と同割にして使われていました。
料理酒の役割
料理に用いられた酒をまとめてみますと、「酒は強烈な塩味」、酸味を自らもたないため、酒単独で調味料として用いられることなく、酒の調味的な役割は調味料、だしの持つ特有の味をある場合には増強し、時には緩和するとともに、調味料、だし汁、さらに材料の欠けた味を補強したり、食材の嫌な臭いを消したり、また食べ物として好ましい香りをつけたりすることにある」と言えましょう。
料理酒と本みりんの意味
本みりんが果たした役割は、室町時代以来、酒が甘味調味料として使われてきたことや、「甘味」と「旨味」を同一としてみなしていた日本人の味覚の根源的な要求に答えるべく登場し、新たな味覚をうみだしたことです。その意味では、本みりんは今まで酒が料理に使われていた理由の延長線上に存在しているだけでなく、本みりんが出現したことによりかえって酒自身の価値が上がったとも言えるでしょう。
参考著書 本みりんの化学